【天使の片翼】
ぐい、と顔を引き寄せられる。
その先には、瞳を閉じたファラの顔が睫の本数まで数えられそうなほど近くにあって。
・・う、嘘だろう!?
自分の唇に感じる柔らかな感触は、しかし夢にしてはやけに現実的だ。
夢の中で、体温までも感じられるものなのか。
ファラの体のかすかな震えでさえ、その場所から敏感に感じ取れた。
それは、ほんの瞬きするほどの時間。
「こ、これが返事だから!」
今にも涙がこぼれるのではないかというくらいに潤んだ瞳が、自分を見上げている。
その頬は、かわいそうなくらいに真っ赤で。
よく見ると、耳たぶまでが桃色に染まっている。
放心して、ソランは危うくカリナを落っことしそうになった。
ざわざわと笑い声の起こる喧騒がまるで耳に入らず、ソランは地面に生えた木のように動けなくなる。
「ファラ」
「か、髪飾り。ちゃんとつけてね」
上目遣いに見つめられて、ソランの心臓が急速に打ちつけ始める。
震える手で、ファラから受け取った髪飾りを彼女の髪に飾った。