【天使の片翼】
「カルレイン王だ!」
誰かが発した声に、全員が振りかえる。
顔をよく知らないものでも、いでたちだけでその言葉が真実だと感じられるほどの光を、その男は発している。
一人、また一人と頭を下げると、一気に見晴らしがよくなった。
その中を、悠々と歩く様は、まさに王たるものの姿だ。
もちろんソランも頭を下げ、内心冷や汗をかいた。
一体どこにいたのか。
今の一件を、どの場面から見たのか。
「父様。どうしてここに?」
ファラの疑問には答えず、カルレインはソランを睨みつけた。
ファラの言葉で、王女に無礼を働いた事を自覚した民衆は、みな青ざめる。
と。
「ソラン」
重苦しい沈黙の中、眉間にしわを寄せたカルレインがゆっくりと口を開いた。
「はっ!」
「カリナを寄こせ」
「は?」
「カリナを渡せと言ってるんだ」
最高潮に不機嫌なカルレインの眉間に、さらに一本のしわが刻まれる。