【天使の片翼】
一般の人々だけでなく、ファラの護衛の任についていた兵士は首をひねった。
自分たちの責任を問われるかもしれないと青ざめていた兵士の一人は、
下げた頭の中で、こっそりと視線をあげた。
今すぐにでも自分たちの首が飛ばされそうな、恐ろしい顔の王がそこにいる。
慌てて力いっぱい目を閉じた。
カルレインに気づいたカリナは、無邪気な笑顔で父親に手を伸ばす。
「よしよし。俺の味方はお前だけだ。お前だけはどこにも行くなよ」
独り言のようにつぶやいて、カルレインはカリナに頬擦りすると、踵を返した。
「父様!」
カルレインの背中がやけに小さく見えて、ファラは思わず呼び止めると、
背を向けたまま、言葉だけが二人を振り返った。
「あまり、遅くなるなよ」
その意図を汲み取ったソランは、驚きを隠しきれず、目を見張る。
と同時に、勢いよく頭を下げた。
「ありがとうございます!カルレイン様!!」
最後の誇りなのだろうか。
カルレインは二人には目もくれず、民衆を前に声を張り上げた。
「邪魔をしたな。みな、楽しんでくれ!」