【天使の片翼】
カルレインは自分の背後から、静まっていた人々が次第に活気を取り戻す声を寂しく聞いていた。
つい俯き加減に歩いていると、カリナがカルレインの髪の毛を引っ張った。
こら、と言いながら視線を上げると。
「どうやら、きちんと子離れできたようですね」
美しい妻が、全てを見透かしたように微笑んでいる。
「ふん。まったく、あんな大勢の人前で恥ずかしげもなく」
自分の事をすっかり棚に上げて、カルレインは恨めしげにリリティスを見たが、後ろを振り返りはしなかった。
楽しそうにフフ、と笑うリリティスの隣には、事情を飲み込めないマーズレンが人形のように立っている。
「あ、あの、カルレイン様」
自分の息子が、まさか王女とそんなことになっているなんて全く想像もしていなかったマーズレンは、
しかめっ面の主を前に動揺を隠せない。
「も、申し訳」
ありませんという言葉をさえぎり、カルレインがふっと脱力してマーズレンを見た。
「ふん、親が親なら息子も息子だ。公衆の面前で口付けるのが趣味らしい」