【天使の片翼】
それだけ言い残すと、カルレインはカリナとリリティスを伴いさっさと馬車へと乗り込む。
なんのことだかわからなかったマーズレンは、さび付いた記憶の中から答えを探り当てた。
・・親も親って!
それは、カルレイン様のせいでしょうに!
それは、マーズレンがルシルに求婚したときの話。
カルレインの結婚式を見に集まった民衆の前で、突然ルシルに愛を告げるよう強要したのは、カルレインだ。
心の準備もないままに、マーズレンは大勢の人々の前でルシルに永遠の愛を誓った。
・・ルシルから口付けたのだって、元はといえばカルレイン様がけしかけるから!
誓いの後は口付けだ、などと言われまごつく自分に、ルシルの方から唇を寄せてきたのは、確かに大事な思い出だが。
文句の一つも言ってやりたかったが、どうせカルレインに告げたところで、そうだったか?とかなんとか返ってきそうだ。
もやもやした気分を晴らせないまま、マーズレンは騎乗した。
馬車の車輪がからからと回り始める。
なんだかまだまだ胃が痛くなることが続きそうだな、とマーズレンは澄み渡った空を振り仰いだ。