【天使の片翼】
小さなぬくもりが離れていったと思ったら、カリナを膝においたリリティスの手が、カルレインのそれにかぶさる。
「幸せは、誰かにしてもらうものではないでしょう?
二人で築いていくものですわ。私とカルレイン様のように。
私たちも、最初はとても未熟でした。
でも、周りの人々に助けられ、二人でそれを乗り越えてきたのではありませんか?」
リリティスの声音は、いつでもカルレインの胸の奥深いところまで抵抗なく染み入ってくる。
それは、天性のものなのか、それとも惚れた弱みというやつか。
「まったくお前は、俺の操縦法をよく心得ているな」
リリティスの瞳が、まっすぐに自分を捕らえているのがわかると、
カルレインの強張った顔の筋肉は、あっという間にほぐれていく。
何も言わず、微笑むリリティスが傍にいて、これ以上何を望むというのか。
「わかった。もう口出しはしない」
「本当ですか?」
「嘘は言わん」
リリティスの膝でカリナがまどろみ始めると、ガタンと一つ、馬車が大きく傾いた。