【天使の片翼】
雲ひとつないまぶしい空。
やや蒸し暑い日の午後、森海城の廊下を、一人の侍女が息を切らせて走っていた。
「あら、レリー。そんなに急いでどこへ行くの?」
おしとやかなレリーが走る姿など、あまり見たことのない光景だ。
レリーは、呼びかけられてはっとしたようだった。
「ファラ様。無作法で申し訳ありません。
実は、ソード様がユリレイン様と勉学のお約束をなさっているのに、まだお見えにならなくて」
ファラの弟であるユリレインは、今やすっかりソードと仲良しだ。
剣も勉学もお互い良い刺激となり、切磋琢磨してめきめきと腕を上げている。
「ユリと?でも、ソードの部屋はあっちでしょ?」
レリーがソードの部屋を知らないはずがないが、彼女が向かっているのは全く逆の方角だ。
「そうなのですが、多分お部屋にはいらっしゃらないと思うんです。
このお天気だと、おそらく城門近くの木の上で昼寝をなさっているのではないかと」
思う、と言いつつも、はっきりと確信めいた口調で、彼女は主張する。
そういえば、ホウトにいた頃もソードの居場所をレリーは常に把握していた。
今ならその理由に素直に頷ける。
少しだけ微笑ましい気持ちになったが。