【天使の片翼】
少女は、答えなかったが、女はぴんときた。
そういうことを話すのは、噂好きな侍女頭のルシルしかいない。
15歳のときから自分に仕え、誰よりも信頼しているルシル。
多分、ファラのことを心配するあまり、うっかり口を滑らしたのだろう。
どうしたものかと考えたが、娘は、すでに18歳。
話しても、よい頃だろう。
女は、夫に相談することなく、話を続けた。
「叔父様と叔母様は、もうずいぶん前に亡くなられてるのよ」
「まぁ!それは・・・。
それでは、ホウト国には、もうお母様の身内は、いらっしゃらないのですか?」
少女は、母に対して酷い仕打ちをしたという叔父たちの話に、心中穏やかではなかったが、
亡くなったと聞いて、すぐにそのわだかまりは、消え去ってしまった。
人の死とは、悲しいものだ。
たとえ、それがどんな人間のものであっても。