【天使の片翼】
ほんのわずか、怒りが見え隠れしていた娘が、
叔父たちの死を悼んでいるのがわかって、女はそっと微笑んだ。
「お二人は、一人息子、つまり私のいとこに当たる方ですけど、
その方を連れて、ホウト国へ亡命されていたのよ。
その方が、10年以上前に病でお亡くなりになってね。
その後を追うように、お二人とも次々に亡くなられたの」
あまり一緒に遊んだ記憶もないいとこだが、
ある一定の時期、この同じカナンの城に住んでいた。
確か、叔母によく似て、金色の美しい髪を持った少年だったはずだ。
そのまま成長すれば、このカナン国の王になっていたはずの少年。
ノルバス国の王子であったカルレインがこのカナンに攻めてきたために、その夢はついえた。
それは、もう20年も昔のこと。
現在のカナン国王である、自分の夫と、初めて出会った頃の話。
残念ながら、自分にはそのときの記憶はないのだが。
「それでは、もうホウト国との間に、確執はないのですか?」
少女の声に、女は過去の記憶のたびから、現在に引き戻された。