溺れる愛☆零れ堕ちる恋心
第十三章☆壁一枚の距離で
「母子ともに、無事だって
一晩、点滴を打って、安静にしてれば明日の朝には家に帰れると」

医師の話を聞いてきた紅夜さんが、廊下で待っていた私に説明をしてくれる

廊下を歩き出す

綾さんがいる病室に向かっている

行きたくないけど、行かなくちゃ

綾さんが一人だから

付き添いの人が必要だろうから…でも、どうして紅夜さんなの?

なんで、紅夜さんのお父さんじゃないの?

だって綾さんの旦那さんは、紅夜さんのお父さんなのに…どうして、仕事をしてるの?

妻が、大変なときなんだから…仕事なんて放り投げて、駆けつけないの?

夫なのに、どうして?

「父親は昔からそうだよ」

私の気持ちを読んだのか…紅夜さんが静かな廊下で口を開いた

「いつでもどんなときでも、仕事を一番なんだ
俺らの家庭環境ってさ…結構複雑なんだ
三人姉弟だけど…みんな母親が違う
父から見れば、綾は四人目の妻なんだ
一番長い夫婦生活を送ったのは朱音の母だった
すごく良い人で、とても強い女性だった
結局、離婚しちゃったけどな
俺らは父に引き取られた
姉貴や朱音はきっと母親と一緒に居たかったと思うよ
でも許されなかった
離婚してから、俺らは母親に会いに行ってはいけないんだ
父の勝手な命令だけど、な
俺は…父にとって唯一の後継者だし、それに母が不倫して男と出てったのもあってさ
別に父親の命令に、疑問も持たずに従えたけど…姉気も朱音もきっと苦しいはず」

薄暗い廊下を歩きながら、紅夜さんが苦笑した

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