溺れる愛☆零れ堕ちる恋心
「言ってくれよ、そういう愛実の気持ちを…俺にぶつけてよ
じゃないと俺、わからないから
愛実の気持ちを無視して、綾のところには行かない…てか、行けないだろ?」

「でも、今日のは…」

「会わないで、手続きだけして帰るっていう方法だってあるだろ?
症状だけ聞いて、あとは父親に任すってのだってある」

「でも…」

「『でも』?」

「紅夜さんと話をした後だったから」

私の髪に触れている紅夜さんの指がぴくっと反応した

「そうだな
俺が追い詰めたかも…しれないな
いや、俺が綾の心を苦しめてるんだろう
俺と父親が親子じゃなかったら、もう会うこともない関係だったのにな」

紅夜さんが苦笑した

「だからって、俺も綾も、ズルズルと気持ちを引きずるわけにはいかないだろ?
綾はもう結婚をして、妊娠してるんだ
俺だって、愛実と付き合ってる
綾と俺の人生は別の道を歩んでいるんだ
もう二度と重なり合うことはないんだよ」

そう?

綾さんはそう思ってないかもしれないのに…

私は紅夜さんの膝から手を離そうとすると、紅夜さんがぎゅっと握ってきた

「ほら、言いたいことがあるなら、言えよ
溜めるな」

「綾さんは、違うかもしれないって思って…」

紅夜さんが私の手を掴んだまま、口元に持ってきた

私の指先に、キスをする

『ちゅ』という音が、廊下に響いた

「綾がどう思っていようと、それは綾の感情だ
俺とは違う
俺たちに大切なのは、俺と愛実の感情だけだろ?」

紅夜さんと私の感情が大切?

綾さんの感情と、紅夜さんの感情は違う

…そうだけど

でも紅夜さんは、綾さんを好きだったんでしょ?

なかなか、忘れられなかったんだよね?

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