溺れる愛☆零れ堕ちる恋心
「お前は帰らなくていい」

早口で、紅夜さんが呟いた

でも…綾さんは、紅夜さんと話をしたがってるよ?

チャンスじゃないの?

綾さんときちんと話す良い機会なんじゃないの?

「やっぱり…あのこと怒ってるの?」

綾さんが悲しげな瞳で、紅夜さんを見た

みるみる目に涙がたまり、頬をしずくが流れていった

泣いちゃったよ?

紅夜さん、いいの?

私は紅夜さんの横顔を見つめた

紅夜さんは、無表情で綾さんの顔をまっすぐに見ている

「あのさ、帰ってくれないかな?
こいつ、具合が悪いんだ
早く寝かせてやりたいんだけど」

紅夜さんの声は冷たかった

どうして?

綾さんは泣いているんだよ?

なんで、そんなに冷たいの?

好き…なんだよね?

「え? あ…ごめっ…、これ食べてね」

綾さんは涙で濡れている頬を、手で拭きとり鼻をすすると弁当を限界に置いたまま部屋を飛び出していった

紅夜さんは、綾さんが出ていくとすぐにドアの鍵を閉めた

「いいんですか?
追いかけないんですか?」

「追いかける?
何で、俺があいつを追いかける必要があるんだよ」

紅夜さんに引っ張られるがまま、私は靴を脱ぐと家にあがった

「だって紅夜さんの体を気遣って、お弁当まで作ってくれたんですよ?」

「あいつが勝手にやったことだ
俺が頼んだわけじゃねえし、弁当を作ってくれる女のケツばっか追っかけてたら、俺の体がいくつあっても足りねえよ
それくらい俺はモテる男なんだ」

嘘つきだ

本当は、追いかけたいくせに

どうして、自分の気持ちを閉じこめてしまうのだろう
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