飛べないカラスたち
「医療機関は今、生きる人々でごった返していることでしょう。だから、大主教様が代わりに私たちを、痛みから救ってくださるのです」
幸せそうに、頭の半分を失った男は、微かに片方の唇を引き上げて歪な笑顔を見せた。
むき出しの奥歯や、舌が、痛みに痙攣を起こしている。
その間にも、大主教は仕事を続けている。段々と箱に消えていく人々が増えていく。
並んでいた、人々が一人、また一人といなくなる。
「生きること全てが、最善であると思ってはいけない」
大主教は仕事を行ないながら、諭した。
「幸せはレイさんが決めることではない。彼らが決めることだ」
「ありがとう、大主教様……」
女は笑いながら、事切れた。
「死が人を幸せにすることだってある」
「生きていれば、きっと……」
「幸せになれると思いますか?それはレイさんの抱く大きな誤解ですよ」
最後の一人が、笑いながら、全ての力を失い、箱に詰め込まれる。
血なまぐさい礼拝堂は、世界中探してもここにしかないだろう。
「レイさん、あなたが思う以上に、人間と言うものはいろんな思考を抱いているのです。あなたの様な優しい人ばかりがこの世界に溢れているのなら、彼らは痛みを乗り越えることが出来たでしょう。ですが、それは、夢でしかない。いろんな思考を抱いている人間がいるのですから、ここにいる彼らの怪我を気持ち悪いと、人間ではないと、蔑み、気味悪がる人もいるでしょう。そんな心にもない言葉をこれから先言われ続けて生きて行く彼らの痛みを、あなたはわかりますか?きっとわかりません、あなたは五体満足なのですから」
長刀の血を拭いながら大主教は続ける。