飛べないカラスたち



「痛みはね、当人にしかわからないのですよ。例えあなたが腕を無くしても、他の腕を無くした人と同じ痛みを抱くともわからない。私もね、本当は何の罪もない人を殺すことなど、したくはないのですよ。ですが、私が出来る何かで誰かを助けることが出来るなら、助けようと思うのが、人間ではないでしょうか。それが例え、理解されなくとも、少なくとも私と、彼らが満足するなら、それでいいと思うのですよ」



罪でもね。そう、言った老人は疲れきった声で最後の一人を詰め込んだ箱がガラガラと騒音を上げて運び出されていく様子を、少し悲しそうな目で見送った。


そしてその場に、力なく倒れた。



「大主教様…!!」



レイヴンは駆け寄ってその弱弱しい身体を抱き起こす。


レイヴンには聞こえないが、大主教の頭には先ほどから何十人もの歪な削除音が響いていた。


遠くで過激派を削除している司教ともう一人の仲間が殺す人間の削除音も。



「痛みはね、生きていくうえで永遠に付きまとってくるんですよ。この歳になっても、痛くて、痛くてねぇ…。逃げたくなるんですよ、こんな老いぼれをここまで痛めつけてまで、成立する世界など、ねぇ。むなしいのではと思うのですよ。でも、…皆が笑っているなら、それでもいいのだろうかと、思ったりね………レイさん、あなた、私の跡を継いではくれませんか?」



「跡を…ですか……?」



大主教は小さく頷いて、笑った。




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