飛べないカラスたち



「わからないことだらけである以上、迂闊な行動をとるのは今の状態から言うと危険だ。すまないが、今回の選考会は出席しないでくれ。そして、一日経っても俺たちが帰ってこない場合、あるいは削除音が聞こえたらすぐに逃げろ。カラスが削除された場合、それが医療機関であっても、仲間には削除音が聞こえる設定になっている。俺たちが誰かを手に掛けたとしても、掛けられたとしても、どの道暫くすればクロウとルックにも危険が及ぶだろう。今ならお前たち二人の顔は知られてないから、逃げるのも容易……」



「ふざけてんじゃねぇよ!!」



言いかけたジャックドーの胸倉を掴んで、クロウは思い切りその頬を殴り飛ばした。


テーブルの上の食器がガシャンと音を立てて揺れ、ジャックドーが床に倒れる。



「ジャックドー!大丈夫ですか…!?」



レイヴンがジャックドーの肩を抱いて起こす中、ルックはクロウの背中にしがみ付いて二発目を引き止めている。


勿論、クロウももう一度殴る気はなかったのだが、依然として噛み付きそうな勢いは変わらない。



「お前ら二人を危ねぇかもしれねぇ場所に知ってて送り出して、削除音が聞こえたら助けにも行かずに逃げろ?バカにすんじゃねぇぞ!テメェが俺たちの立場なら黙って逃げんのかよ!!」



「クロウ!」



ルックの叫び声に、一気に沸点を越えた空気が急激に下がる。



「…クロウの気持ちはわかるけど、クロウだってジャックドーたちと同じ立場だったら同じこと言うだろ…」



ルックの冷静な言葉に、流石に頭が冷えたクロウはルックの腕を解くと寝室へと入り、ドアを閉めた。


例え自分たちがいなくなったとしても、大切な友には生きていて欲しいと願う二人と、友を見捨ててまで生きたくはないと思う二人。


例えこれが反対だったとしても、対立は起こっただろう。


生半可な絆ではないのだ。


全てを失った人間が、手に入れた絆は。


だからこそ衝突は本気だし、殴り飛ばす力も手加減がない。


静まり返るリビングには、キッチンにある冷蔵庫のモーター音とすすり泣くルックの嗚咽が微かに聞こえた。






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