飛べないカラスたち




そんなある日、ルックの中の父親像が崩れる出来事があった。


父親は母親に頼んで一人の少年を家に置いてくれるようにと頭を下げたのである。


少し遠くの親戚が亡くなり、その子供を引き取る人間が居ないのだ、と聞かされた母親は「わかりました」と承諾を返した。


母親が何を言われても従い、嫌な顔をしなかったのは、彼の遺産が目当てだったからかもしれない。


今はそう疑ってしまうようになってしまい、自分があれほどなりたくなかった立派な大人の仲間入りをしたのだと、ルックは鼻で笑う。


ともかくして、殆ど家に帰らない仕事で忙しい父の代わりに、柔らかい表情の少年が大きな荷物を引っさげて、ルックの家へとやってきた。


最初母親に紹介されたときは恥ずかしくて母親の後ろに隠れた。


それでも少年は「よろしくお願いします、カイン君。私はレイと言います」と穏やかな微笑を浮かべながら握手を求めてきた。


ルックはその手を握り返して、恥ずかしそうに自室へと戻る。


それが、始まりだった。



今から10年前、後にレイヴンと呼ばれる青年が12歳の頃、ルックが6歳の頃の出来事だった。






*
< 44 / 171 >

この作品をシェア

pagetop