飛べないカラスたち
「だけど会えてよかった。『カラス』になっていたなんて驚いたけど、嬉しいわ」
過去には痛みと苦しみしかなかった。
何が悪いのだろうかといつも考えていた。
悪いのが自分なら、その手で殺してしまえば良いのにと、いつも思っていた。
それを昔口に出した時、母親は逆上して身体中を蹴り飛ばし、殴り倒した。
そう、さっき土の上でしたように。
土の味に、口の中の不快感に、こぼれて落る米粒のような記憶の中から漸く現実に戻ってくる。
女は、朦朧としている意識のクロウを差し置いて話をしている。
「…今まで何人殺してきたの?」
女はクロウの髪を離すとその指で、クロウの腕を伝って、拳銃へと手を伸ばした。
それは咄嗟の、反応。
『カラス』としての、反応。
クロウである今の自分の、反応。
瞬時に身体をあお向けて、月光に鈍く輝く冷たい銃口を、女の胸に突きつけた。
「………、…」
何かを言いかけたクロウは、咽喉の奥で空気が通るだけで何一つ伝えることが出来なかった。
いつもそう、何も言えなくなる。咽喉が詰まるというよりは、思考を全てかき消されてしまうのだ。
思考していれば、苦しいだけだと無意識に身体が生きる為に行なった防衛本能。
今、女は微笑んでいる。
目は、見なくてもわかる。