飛べないカラスたち
緩慢な動作で立ち上がった女は、クロウの腹を思いっきり踏みつけた。
伸ばされていた腕から拳銃を奪い取った女は、執拗に腹や胸を踏みつけ、横腹を蹴り飛ばした。
その顔には微笑などなく、憎しみに煮えたぎったその顔からは人間らしいものなど何処にもない。
何年ぶりかに見ても、忘れられるはずもない。
クロウの幼少期を、塗りつぶした、この顔を。
ハァ、ハァ、と荒い息が聞こえる。
肩で呼吸しながら女は、動かなくなった、それでも気絶したわけではないクロウに注意を向けることもなく手にした人類史上最高の兵器を眺めては悦に浸っている。
「綺麗な銃ね、…この銃で次は誰を殺すのかしら」
女の笑い声が夜の墓地に響いた。
クロウは消え入りそうな声で、ただ一言、呟いた。
「…か…え、…してくれ……か、…さ、ん……」
手を伸ばし、拳銃を取り返そうとするその行為も空しく、その手は女の白いヒールによって地面に落とされ、踏みにじられた。
「実の母親に銃口を向けた人に母さんなんて呼ばれたくはないわ」
恐ろしいほどに優しくそう呟いた女はスライドを引いて薬室に弾薬を送り込むとその銃口をクロウの心臓へと向けた。
気を失いそうな朦朧とした意識の中、逃げることなく、クロウは目を閉じた。
いつか来ると思っていた、この瞬間。
ルックはまた夜泣きでもするだろうか。
レイヴンは自分を責めては悲しみに暮れるだろう。
ジャックドーは、悲しんではいてもレイヴンとルックを支えてくれるだろう。
「『カラス』って案外ひ弱なのね」