飛べないカラスたち
*



クロウの幼少の頃の記憶というのは闇だった。


押入れの中に隠れて、母親の神経を刺激しないように物音を立てずに小さくなって座って過ごす。


音を立てなくても、母親は部屋中をゆっくりと歩き回ってクロウを探す。


見つけてはとても嬉しそうな猫なで声でクロウの名を呼び、引きずり出すと、殴ったり蹴り飛ばしたり、壁に頭を打ち付けたりした。


母親は娼婦だった。


お金がないひもじい現実と、高価なものを周りに侍らせて生きたいという高慢な母親の理想とのギャップが酷い所為で均衡が保てなかったのだろう。


うまくいかない自分や、世界やお金に苛立ち、母親はいつもクロウに当り散らしていた。


歩いているだけで煩いと言われたので、押入れの中で過ごしていたらその気配さえも目障りだと言って殴られる。


一度外で時間を潰していた時、補導され、警察官と一緒に帰ってきたとき、母親は心配していたのよ、と咄嗟に演技をして「強く叱りすぎて…」などと言い訳をし、警察官の目を欺き、その後で、食事が3日間摂れなくなるほど、クロウを虐待し続けた。


タバコの火を押し付けたり、クロウの服に火をつけて火達磨にしたりと、その行為は悪質で、だけど誰もクロウを助けることはしなかった。


クロウが泣き叫ぶことをしなかったからである。





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