飛べないカラスたち

最初の方はよく泣いてはいたが、虐待が日常化すると被虐待児症候群に陥り、その行為を何の疑問なく受けるばかりか逃れようとする努力もしなくなったのだ。


学校は家のテレビで通信して行なうタイプの学校に通っていたので、誰もその異変に気付かなかった。


休み時間に、友人たちの会話を聞いたりも出来たがその会話には決まって優しい母親や面白い父親の話が出てきて、クロウはその話がよくわからずに曖昧に返すしか出来なかった。


クロウの父親は、誰かわからない。


毎日毎日身体を重ねてはお金をもらう母親は、勿論一定の男だけを相手にするわけじゃない。


好きな男を相手にするわけでもないし、その頻度だって日によってまちまちである。



「コブ付きじゃ客取れないから、押入れで絶対に音を立てないでいるのよ」



と、言い聞かせて母親は男を家に呼び込んだこともある。


大半は母親が呼び出されて男の指定した場所へ行くことが多かったので、クロウは一人隠れて過ごしていた。


いつ母親が帰ってきてもいいように。


帰ってくると大抵不機嫌なので、目の付くところで眠っているといい八つ当たりの玩具にされるのである。


勿論、隠れて眠っていても探し出されて八つ当たりの道具にされるが。


眠っていたところを叩き起こされて、母親が働いているのに暢気に眠っているなんてと頭から水を被せられたこともあった。


押しピンを腕に押し付けられたこともある。


出来る限り母親の機嫌を損ねないように、生きていた。それは死んだような生き方だった。


こうなってしまった原因を思い出そうとしても思い出せなかった。ただ、覚えてないだけで自分が母親の嫌がることをしてしまったのかもしれない。




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