飛べないカラスたち
暗い暗い押入れの中でクロウはその壁に『ごめんなさい』と書き続けた。
ペンで書けば殴られたから、涙で書いていた。
書いても書いても消えるその文字は、この壁に一体どれほど染み込んでいったのだろうか。
転寝しても、押入れが開けられる恐怖に、何度も目覚めては睡魔の限界が来てまた転寝し、恐怖に目覚める。
まともに眠ることが出来なくなって体調を崩したら、『咳がうるさい』と咽喉を絞められる。
咳が漏れたらそれだけで叩かれた。
一度だけ、聞いたことがあった。
「どうすれば母さんは僕を愛してくれるの…?僕はどうすればいいの…?」
すると母親は一瞬殴る手を止めて、あの表情を浮かべた。
表面だけを微笑みに変えた、目だけは冷たく笑っていない、表情。
「愛するって、どういうことを言うのかしら?私にはわからないわ」
そういって、クロウを掴んでいた手を離し、床に叩きつけるともう飽きたのか部屋を出て行った。
後々考えればなんとなくわかったが、母親は一度も両親の話をしたことはなかったし学校は中卒だった。
クロウを産んだのが十八歳の時だと聞いたことがあったので、もしかしたらその頃から、いやそれ以上前から娼婦として生きていたのかもしれない。