飛べないカラスたち
その経緯さえ、母親は語ったことはなかった。
夫と呼べるような男の話も何もしなかったし、恋愛の話さえも一度もその口から聞いたことはなかった。
つまりは、母親も愛情を知らなかったのかもしれない。
愛していたはずの男はいたかもしれなかったが、裏切られたのかもしれない。
娼婦の女が愛されるのはベッドの上だけだ。
母親も愛情に餓えていたのかもしれない。それでも愛情をどうやってもらえばいいのかわからなかったのかもしれない。
少しずつ母親と同じように愛情というものが欠落し、その歳にして既に同級生にはない何かを手にしつつあったクロウは、テレビ画面のクラスメイトの一人から初めて告白というものを受けた。
リアルに逢ったことなど一度もない相手に、二人だけが互いを閲覧できるように設定されて。
しかし、その言葉にリアルを抱けなかったクロウはそんな女の子の初々しい告白を冷ややかに言い捨てた。
「好きだから何?自分のものにしたい?逃げないように檻に閉じ込めたい?鎖で繋ぎたい?殴って動けないようにしたい?自分の好みに僕を作り変えたいの?悪いけど、好きって気持ちがよくわからないよ」
女の子は泣いて通信を切った。
女に泣かれたのは初めてだったので多少困惑したものの、何故泣いたのかさえもよくわからない。
殴っても蹴ってもいないのに、どこか痛かったのだろうか?
補導されてから家から殆ど出ることを許されていないクロウは対人関係から培われる感情などが酷く欠如していた。