飛べないカラスたち
一人になったクロウはそれでも変わりなく、看護士や医師に心を閉ざし、触られることを極端に嫌がった。
その入院中に、クロウは体内に内蔵式イヤホンを、そしてその背に『カラス』の証である翼の烙印を押され、不似合いなシルバーの自動式拳銃を与えられることになる。
クロウが十四歳だった頃。
『クロウ』という名が付けられた。
それから一年ほどはずっと一人で拳銃の練習をし、母親とは一度も連絡を取らなかった。
何処にいるのかも知らなかったし、自ら動けるほど心の傷は浅くはなかったのである。
その一年で人にも少しずつ慣れ、それでも欠落した人間性というものは一年では回復しないまま、『カラス』の顔合わせに強制的に参加させられた。
最初はそれこそ誰よりも、信用するということを知らず、触れられるのも嫌がり、レイヴンの握手の手も払った人間だ。
一匹狼のように馴れ合わなかったクロウは度々、一人で行動してレイヴンからの叱責を受けることになる。
叱責のたびに微かに身体を強張らせるクロウに、レイヴンはなんとなくだがクロウの過去に気付いたのだろう、優しく言い聞かせ、うまく出来た時には頭を撫でて褒めた。
最初は褒められることに慣れなかったクロウは、怯えたような目でレイヴンを見つめたが、レイヴンの努力の甲斐もあって徐々に心を開くようになり、今ではルックにアニキ風を吹かせるまでに成長した。
頑なだった心も三年も経てば随分と緩み、痛みに鈍くなってしまっていたのかもしれない。
今回の任務について、レイヴンが持ってきたリストの中にあった母親の写真を見たとき、思わず吐き気が蘇って、身体の細胞隅々に叩き込まれたあのトラウマが一斉に反応した。
急激に上がった血圧と心拍数に目の前がチカチカと眩み、立っていたらその場に倒れこんでいただろう。
その時はビールを流し込んで、忘れた振りして仲間と騒いでいたが、母親の存在はずっと心に引っかかって取れないままだった。
そして最悪的なことに、レイヴンが血縁関係を知らないとはいえ、この手で母親の削除を、命ぜられた。
あの日々の復讐を促されるように。
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