飛べないカラスたち
*



結局、レイヴンに全てを説明し変更を求めることも出来ないままこの日までたどり着いた。


任務最終日、母親の行動パターンを事前に知らされたクロウは夜の教会へと忍び込んだのである。


暫く観察していると、母親は神に祈りを捧げてから買い置いていた花束を手に墓場へと向かい、一つの墓に飾り付け、熱心に祈りを込めた。


削除するなら、今しかないと拳銃を突きつけた時に、墓場に先ほどまで飾られていた、取り替えられた花が捨てられるのを拒むかのようにふわりと飛んで、その花を視線で追った母親が、背後に立っていたクロウに気付いて。


その目を、見た瞬間にブチブチ、と塞がりかけていた古い傷口がグロテスクな音を立てて開いた。



「あら……珍しいお客さんね。とても懐かしい…」



そして開ききったトラウマを受け止め切れなかったクロウは、迫り上がってくる吐き気と、母親の力に倒れた。


拳銃を奪われ、その銃口が自分に向けられる。


それをなんら不思議と思わなかったのは、いつか母親に殺されるだろうと幼い頃確信していたからかもしれない。


三年間で作り上げられたクロウという人間は、十四年間母親に作り上げられてきたその人格に敵うほどの強さをまだ持ち合わせてはいなかったのである。


それは銃声が鳴った直後。


クロウの周りにまとわり付いていた母親のベタついた香水の匂いが一気にかき消され、新鮮な空気がクロウの肺に届いた。


どこも痛くない。削除音も鳴らない。わかるのは、あのベタついた空気が遠退いたことだけ。


ゆっくりと目を開くと、何てことなく開き、暗い空がガラス越しに見えた。





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