飛べないカラスたち
「お友達が私を殺すの?」
「クロウが良いなら、それでも構わない」
立ち上がったクロウはまた眩暈に似た身体全身の震えを感じていた。
まるで自分の足が他人の足に変えられたかのような、そんな違和感を感じていたのだ。
どちらかの選択を、二人同時に無言で迫られる。
この私を殺すのは、お前か、ジャックドーか。
この女を殺すのは、クロウか、俺か。
母親だと、本当の母親だと思わせる行動を、クロウの前では一度もしたことがなかったこの女のどこに、躊躇う要素があったのかはわからない。
だが、すぐには答えが出せなかった。
沢山の感情がない交ぜになり、種類も、温度も何もかもが違う材料でミックスジュースを、脳内で作ったかのように、思考回路が動かなかった。
「いいのよ?憎かったでしょう?殺したかったでしょう?殺しなさい」
酷く冷ややかに母親はそう言いながら、その間にいたジャックドーを押しのけてクロウに歩み寄った。
問いかけられたクロウは、何かいいそうになって母親の目を見るが、思うように言葉に出ない。
違うとも、そうだとも、違う。二つとはまた別の感情が確かにあった。
憎しみを抱いたときもあった。殺そうと思ったときもあった。実際に行動に移そうとして、移せなかったこともあった。
どこかで、微かな可能性に縋ろうとしている自分がいたのである。