飛べないカラスたち
今はもう、『カラス』のクロウとして、生きている。もうあの頃の力のない子供でもない。もう一人でもない。
新しく道を踏み始めたのだ。新しい自分として。
もう振り返らないと、似たような傷を抱いた友人たちと一緒に生きていこうと、決めたのだ。
そう、言い聞かせる。
伸ばしかけた手を、拳を作って握り締めることで抑え、クロウは拳銃を、母親の心臓に向けて突きつけた。
「そう。………いつだったかアンタがベランダから飛び降りた時、…アンタは何を見てたの?」
掠れたように光るおぼろげな記憶の中の観覧車。
叶わぬ夢と気付けば、その光はあの頃よりも廃れて楽しげな音楽さえも聞こえない。
忘れ去られ、捨てられた遊園地の、一番奥に誰かの目に留まることもなく佇む、錆びた観覧車のようだ。
自然と流れ落ちていく雫が頬を濡らして、その濡れた頬を風だけが撫ぜる。
母親はクロウの涙を少しだけ驚いたように見つめていた。その視線に、耐えられなくなってクロウは目を閉じて、小さく呟いた。
もう届かない夢なら、必死に手を伸ばす必要などないのだから。
「夢、だよ…」