焦れ恋オフィス


  *   *   *

ふと我に返ると、そろそろ飲み会に出かける時間が迫っていた。

ソファに座り込んで考えこんでいる自分は、なんて女々しいんだろう。

どんなに愛情を注いで抱いても、俺一人だけのものにはならない女の事を考えこんでいるなんてな。

どれだけ芽依に惚れてるんだ。

「はは……」

乾いた笑いが思わず出て、更に気持ちが苦しくなるけれど、今の俺には笑う事しかできない。

彼女がいた俺にとっては、浮気から本気になってしまうという予想もしていなかった展開。

いや、芽依を見た瞬間から気持ちはぐっと持っていかれて、本気で好きになってた。

そして、抱く度、見つめ合う度、芽依への愛は俺の中で確実に育っていた。

そして、芽依にも俺への愛はあるはずだ。

ただ、高橋専務にも愛情を持っているのも確実で。

……考え出すと、不毛のループに入り込んでしまう。

いつものことだけど。

大きく溜息をついて、出かけるために着替えようと立ち上がった時。

玄関の鍵が開く音がした。

もしかして。

少しの期待を隠せないまま玄関に向かうと。

「……戻ってきちゃった」

俯いて小さな声で囁く芽依が立っていた。

「夏基は、もう出かける?ちょっとだけでもいてもいい?」

「いいけど……」

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