焦れ恋オフィス
「高橋専務は、芽依一人を愛してるわけじゃないのに」
夏基の口から思わず出た言葉に、言った本人の夏基自身が驚いている。
これまで、高橋専務の事を突き詰めて言葉にしたこと、あまりなかったから私も戸惑ってしまう。
夏基は小さく息を吐き、情けない顔をして私を見ると
「悪い……」
「ううん。いいよ。それは本当だし。それに、夏基だって私だけを大切にしてるわけじゃないってわかってる。
本命の女の子を探して色々な場所に顔を出す合間に私と過ごしてるだけでしょ?」
「……」
決して責める口調ではないけれど、私の言葉にもどこか厳しさが紛れているのかもしれない。
夏基はじっと私を見つめて考え込んでいるだけだ。
私は、諦めにも似た思いが溢れるのを感じながら、それでもどうにか笑顔を作って。
「……慣れてるから、大丈夫。私だけを愛してもらえない事には、小さな頃から慣れてるから」
語尾が少し震えた事、夏基が気付いてなければいいけど。
それでも、普段と違う声音で、必要以上に明るく言ってしまったような気がして、不安気味に夏基を見ると。
何の気持ちも読み取れない、どこまでも暗い瞳が揺れていた。