焦れ恋オフィス


「……わかったって、何がわかったんですか?」

「薫は戸部くんの作品を、写真で見て、今までの自分の作品を見てるみたいだって呟いてた」

「今までの自分の作品……」

相模さんは、少しのためらいを見せたけれど、それでも強い視線を俺に向けて

「大賞を取る為の完璧な作品。何かに勝とうとしている作品」

「……」

その言葉を、俺は体で受け止めて。

瞬時に浮かぶ人がいる。

父親への感謝の為に大賞を取ろうとしていた自分の気持ちに嘘はないけれど、隠そうともがいていた俺の中の黒い気持ち。

ずっと俺が勝とうとしていたのは、そう、大賞を受賞した経験のない。

高橋専務だ。
< 95 / 312 >

この作品をシェア

pagetop