またね【実話】
彼は何かと毎日楽しそうだった。
誰からも嫌われないような人だった。
会うたびに痩せているようだった。
彼はどうやっても太らない人だった。
彼の背中にあるほくろが
なんだかエロくて好きだった。
彼は「いいよ」という言葉を発するのが
世界の誰よりもうまい人だった。
ちょうどいい声の高さで
まるで私の頭を優しくなでるように
「いいよ」
とつぶやくのだった。
あの「いいよ」があれば
ほかには何もいらないと思えるような
「いいよ」だった。
彼はロックが好きだった。
私はそんな彼が好きだった。
邦楽のポップスしか知らなかった私にとって
彼の存在は強烈だった。
ロストプロフェッツ。
カサビアン。
フランツフェルディナント。
キーン。
バックストリートボーイズ。
私はどんどん彼の好きな曲を覚えていった。
彼の曲を好きになるたび、
彼のこともどんどん好きになっていった。
彼はいつしか
私にとって
忘れられない人になった。
彼はロクでもない人だった。
きっと一生それは変わらない。
それがあなた。
そのロクでもない彼が、あなた。