この世界が偽りだとしても
少し歩くと、目当ての店を見つけほっとする。
早く店の中に入らなければ凍えそうだ。

外に出ている看板には『Un bonbon』の文字。可愛いイラストはケーキだ。

少し年季の入った、でも決して古ぼけているわけでもないその店からは暖かい光りが零れている。

ちら、と中を覗けば、男の客と店主が話していたようだが、それもすぐに終わり客が出て来た。

少女はぶつからないように一歩下がり道をつくる。

出て来た客は少女の顔を見るなり、まるで奇怪なものを見るような目つきで足早に去って行った。

少女はそれに驚きはしなかった。唯、暫し店のドアのガラスに映る自分の顔を眺めて寂しそうに笑う。

自分の表情に心底うんざりして溜息を一つ吐く。

(別に、何とも思わない…これが私なんだから)

ガラスの中の少女の瞳は、それぞれ違う輝きを放って煌めいていた。
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