てとてとてと
「ちっけっぴ!」
「おっちゃらかほい!」
「ほい! ほい! ほい!」


 雨が明けた翌日。
 三年五組の教室は、爽やかな青空とはかけ離れた熱気に包まれていた。

 教卓のまわりに集まり、円陣を組んで不可思議な掛け声でジャンケンをしている。

 敗者は血の涙を流さんばかりの勢いで慟哭していた。

 勝者は弱者の屍を踏み躙り、さらなる高みを目指して鼓舞の雄叫びを上げていた。

 なんて地獄絵図だ。
 こうなる元凶なんて、一人しか知らない。


「よっす。おはよう幸介」

「やあ、おはよう千草」


 窓際の列の一番後ろ。

 そこが彼、槇原千草の指定席だった。

 人一倍背の高い彼は、黒板が見えなくなるという理由でいつも後ろの席になる。

 ちなみに自分はその隣。

 喧騒から縁遠い席に座り、何事だと質問した。


「わかんねえ。俺が来た時には既に戦場だった」


 ふっふっふっと笑う。

 空気にあてられ血が騒いでいるのか。
 巻き込まれたくないものだ。


「俺たちもやろうぜ」


 いまさらジャンケンに加わるのか。


「まずはスクワットだ!」


 種目が違うといわざるをえない。


「え。罰ゲームを決めるジャンケンじゃないのか?」


 そうだとして、なぜ罰ゲームで競わなくてはならないのか。

 首を傾げて悩みだす。いるのだ天然は。


「朝っぱらから賑やかだな、お前たちは」


 ぬっと机の下から、どこぞの狸似のロボットのように現われる、騒ぎの元凶。


「お前に言われたくねえよ」

「照れるぞ」

「褒めてねえ! ……褒めてないよな?」


 自身なさげに見られても困る。

 奇怪な行動ばかりとる変り者を相手に、常識や天然で太刀打ちできるはずがない。

 千草を打ち負かしたことで満足したのか、変り者こと浅川弘瀬は机の下から這い出てきた。


「よいしょ」


 ――ばたん。


 はて。
 なぜ机の下、それも足元からドアの開閉音が聞こえるのか。
 ここ三階なのですが。


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