てとてとてと
 では種明かしだ、と弘瀬は言う。


「今日転校生がくることは知っているな?」

「なにそれ」

「…………さすがだな」


 こいつ救えない。そんな目で見られた。

 自慢ではないがホームルームは睡眠学習にあてているのだ。
 話なんて聞こえるはずがない。

 まあいい、と救えない友人を置いて弘瀬は説明を続けた。


「転校生の情報を一早く入手した俺は、平等を期すため教師と交渉した」


 席替えを行う交渉だろうが、どうしてそこで席替えなんて発想が出るのだ。


「決まっているだろう。上玉だ」


 恋愛には興味がない、なんて豪語する弘瀬が珍しく力を込めて異性を語った。

 それだけで驚くに値する。

 自分が知っているだけで、これで二人目だ。

 わかるか、と弘瀬に目配せされる。

 はて。
 転校生が上玉でなぜ席替えなのか、まだ理解できなかった。


「鈍いな。お近付きになるためには、隣の席が一番だろう」


 やっと合点がいった。


 美少女の転校生と気安くかつ、誰よりも早くお近付きになるために隣の席に座りたい。

 つまり雄の本能と青春をかけた戦争なわけだ。

 しかし女子が率先して参加しているのはどういうわけだ。


「女もまた、本能に忠実なのだ」


 意中の相手の隣に、合法的で確実に座れるためにか。

 ハイエナではなく勝ち組を決めるための社会の縮図なわけだ。

 やった、と陣から声が上がる。

 男の野太い声ではなく、幼なじみの可憐な声だった。

 席の予約を終えたのか、彼女は自分たちへ一目散に向かってきた。


「こーすけ、やっと隣だよ」

「そういえば同じ班になったことなかったな」


 桐沢茉莉とは小学校から同じクラスであったが、同じ班になったことは一度もない。

 幸運なのか不運なのかよくわからない。

 ついに同じ班だ、と喜ぶ茉莉だが。

 ふとした疑問。


「俺の席、ここじゃないぞ?」


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