てとてとてと
 茉莉は千草の席を取っていた。
 なるほど、確かに隣だが。


「俺の席が誰かに取られたら? そうしたら別の場所に座るから」

「は、はかったなあー!?」


 があ、と吠え弘瀬に噛み付く茉莉。文字通り、がぶっと。


「だ、誰が座るかなんてわからないだろう。俺に責任はない」


 脂汗が浮いている。
 茉莉の犬歯は鋭いのだ。

 羽交締めにして剥がす。
 あんなの噛んだらばっちいだろうに。


「うう、好きな席に座れるっていったのにいっ」

「場所には座れただろう」

「周りが違ったら意味ないじゃないかよぅ」


 とことんまでいじける茉莉。

 ついに床にのの字を書き始めた。


「まあ、勝者が勝ち組とは限らないものだ」

「屁理屈だよ!」

「だが真理だろう」


 おいしいところは別の誰かが持っていく、というわけか。

 なるほど、そういう仕組みか。


「はかったな」

「それほどでも」

「なに、どうしたの?」


 茉莉は気付かない。

 真の勝者はジャンケンの勝者なのではない、ということに。

 説明しよう。
 勝者がなぜ負けるのか。

 結論から言えば、勝負に勝って試合に負けるのだ。

 いくら好きな席を先に取っても、次から次へと席は埋まっていく。

 同じ目的の相手が、ライバルの望む展開など作るはずがない。

 気が付けば周囲には人が座って空きなどなくなってしまうというわけだ。


「それってサギだよ! なら最下位の人が一番有利じゃない!」

「実はそうじゃない」


 首を傾げる茉莉。
 うん、俺も卑怯だと思う。

 しかし、これは席替えなのだ。
 クラス全員の座る場所を定める行事。

 つまり、主催者が参加してはいけないという道理はない。

 公平を重視して勝負には参加しないと言い、結果最後の席を決めるのは最下位ですらなく。


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