てとてとてと
「サギだあー!!」


 がああ、と噛み付く茉莉。
 それはもう手加減など微塵もなく。

 この子の噛みぐせは、そろそろ矯正しよう。本気で思った。

 皮膚が切れて血を流しながら、弘瀬はなお不敵に笑う。


「策士と呼んでくれ」

「詐欺師の間違いでしょ!」

「策というには御粗末出しな」


 空いている席の隣に、さらに空きが残っている保障はどこにもない。
 さらに不参加の自分までいるのだ。
 望んで転校生の隣に座れる可能性なんて、皆同じく低い。

「そうでもないだろう。お前は確実だ」

 指差される最後尾列の席。
 人数の関係上、席は三つ。

 一つは千草。
 どうやらジャンケンには敗北したよう。

 一つは自分。
 いまは茉莉が膨れながら占領していた。

 最後の一つは。
 はて。
 誰の席だったか。


「空席だ」

「……ああ」


 だからみなさん必死にジャンケンなのですね。
 片方しか隣に空きがないから。

 理不尽な不戦敗に救いの手という餌をぶら下げたわけだ。

 結局これは、はじめから勝者の決まっているハイエナの奪い合いだったわけだ。

 八百長じみた勝負が加熱していく。
 だが根本的な解決になっていない。

 席替えをした結果、望む場所に二つ空きがあるかという問題だ。


「問題ない」


 ふ、と笑う。
 その不敵さはいったいどこから湧いてくるのだろうか。

 胸を張る弘瀬は、自信満々に。


「チャイムが鳴ったら試合終了だ」


 ――キーンコーン、カーン……。


 無情な試合終了を告げる音。
 不利になったらはじめからなかったことにする算段だったのか。

 ポン、と肩に手を置かれる。


「頑張れお隣さん」


 気が付くと、ハイエナさんたちの血走った目が自分だけを見つめていた。


「は、はかったな?!」


 この日、一日中針のむしろでいじめられていたが、あまり語りたくない。

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