てとてとてと
 少しだけ憂鬱な気分で先生の到着を待つ。

 千草は完全燃焼したらしく、机に突っ伏して安らかな眠りに就いていた。

 男子クラスメイトたちは期待に満ちた気配で、教室のドアが開かれその時がくるのを待っている。

 女子クラスメイトたちは勝負の熱が冷めたのか、落ち着きを取り戻し来る転校生の噂で持ちきりだった。

 本来ならその輪に加わってもいいのだが、火にガソリン被って飛び込む行為なので自重した。

 今更だがクラスの半分を敵に回したくない。

 予鈴が鳴って五分。

 いよいよホームルームが始まるという時間になって、期待の代弁者である担任が教室に入ってきた。

 簡単に出席の確認を取ると、飢えた獣たちを見回し、さてと定番の前置きをする。


「もう知っているとは思うが、今日からスペシャルなゲストさんがいらっしゃる」


 にやりと笑う。

 なぜか担任の先生からは弘瀬と同等の匂いがする。

 ばん、とわざとらしく音を立てて生徒名簿を閉じる。

 芝居がかかった仕草は、クラス内の空気を必要以上に高めていく。


「転校生を紹介する!」


 --おお!

 と同意か雄叫びか判断しづらいどよめきが生じる。


「金髪美人さんだ。盛大な拍手を持って迎えてやれ!」


 --ハッハー!

 と力強く頷く誇るべき我がクラスメイトたち。


「入ってきなさい」


 --ヒャッハー!

 歓迎の奇声を上げ、転校生を迎え入れる愛すべき大馬鹿のクラスメイト。

 廊下でこの大騒ぎを聞いていたためか、驚く様子もなく入ってくる転校生。

 はて。
 どこかで見た覚えがある。

 金色の髪を遊ばせて、優雅に教卓まで歩いていく。

 そんな姿勢に、クラスメイトたちの興奮は最高潮目指して加速度的に昇っていく。

 担任が黒板に書く、転校生の名前。


「久坂絵理香。日本育ちで両親はロシア人だそうだ。
 わかっているとは思うが仲良くしろよ?」


『サー、イエッサー!』


 担任は女性なので、サーではなくマムだ。
 と、突っ込むのは無謀なので閉口しておく。

 自己紹介を、と担任が下がって転校生の久坂が前に出る。


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