てとてとてと
「むぅ。さすがだ」

「いつか決着つけねえとな」

「このすっとこどっこいズ!!」


 ぐわっと猫科の威嚇姿勢で吠える女子。下着が見えそうだ。

 絵に描いたような金色の髪と、暗めの瞳。
 今年転校してきた久坂絵理香。彼女が最後の友達だ。

 四肢を踏張って威嚇していた猫絵理香は、自分よりも巨大な千草に飛び掛かった。

 よほど頭に来たのだろう。
 全力疾走中に足を引っ掛けられれば、当然か。


「あんたら、卒業式にあたしを遅刻させるつもりか!? 返答次第じゃ全殺しよ!」


 怒りのベクトルが違った。


「おおぅおうおぅ」


 美しい顔とは裏腹に、実にパワフルで勝ち気な絵理香は千草の首を絞めて放さない。落ちそうだ。

 時間をよく見てと、慌てながら茉莉が腕時計を突き出した。

 ぴたりと止む猛攻。

 パチパチと何度も瞬き。

 赤い顔がさらに赤くなった。
 誰がどうみても、怒りから羞恥で。


「この慌てん坊さんめ」


 容赦なく地雷を踏む弘瀬。

 ボン、と絵理香が爆発した。


「あ、あんたらのせいだあ!! ポンコツ三人集!」


 猫科の動物が牙を剥く。
 あれ。俺も含まれてるよ。

 またたびもねこじゃらしも効かない獰猛な猫様の怒りを鎮め、なんとか六人の大所帯で登校する。

 絵理香の遅刻癖は、相変わらずだった。

 やけに電子機器に嫌われ、目覚ましに翻弄されて登校するのが、彼女の日課。


「まあ、あの目覚ましにもたまには感謝してもいいかな」


 なぜ、と聞くのは不粋だ。

 それがわかっているから、みんな楽しげに笑っている。


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