てとてとてと
6月のある日
休日の日課として健全な男子学生を自負する吾妻幸介は、室内になど籠もってはいなかった。
財布片手に着慣れたジャケットとジーパンで町を闊歩していた。
それが一時間前の出来事。
今は後悔している。
せめて天気予報くらい、見るべきだった。
バケツを引っ繰り返したような土砂降り。
急いで手近なコンビニに逃げ込んだものの、あっという間にずぶ濡れだった。
張りつく黒い髪を、後ろへ掻き上げる。
最近髪を切っていないことも災いして、服装から髪型まですべてが不快だった。
「雨、止まないなあ」
灰色を通り越して黒ずんだ空にぼやいた。
通り雨だと思っていた降りは、実は夜半まで続く大雨だった。
そんなことも知らず黄昏ていたのは、ほんの三十分前の出来事。
咄嗟に体が動いて、いつの間にか土砂降りに飛び込んでいた。
傘くらい買えばよかったと後悔するが、もう遅い。
力強く振り上げられた右腕を、乱暴にならない程度に掴んで止めた。
「なっ……?」
さらさらと弾けて流れる、
湿気にも負けない強い髪質。
長い金色の髪は、風に乗っていい匂いがした。
胸元程の高さから、人の顔を真正面から見上げてくるビリジアンの瞳。
外国人をこんなに近くで見るのは初めてだ。
しかし見惚れてはいられない。
「ごめん待たせたね」
掴んだ右手を自然に下ろし、手を繋ぐ形に持っていく。
「さあ行こうか。埋め合わせは、ちゃんとするから」
右手を引くと、女の子はハッと目を見開かせてすぐに笑った。
「しょうがないわね。今日の代金全部持ってもらうから」
元々頭のいい子なのだろう。
男二人とはいえ、カッとなって手を上げればどうなるか結果は明白だ。
穏やかに場を離れられるならそれに越したことはない。
隣に立ちながら、見上げる視線がお節介めと非難していた。
ずいぶん強気な女の子である。
だがこれで諦めるなら苦労はない。
「おい兄ちゃん、ちょっと待て」
なんて台詞だろう。だが気持ちは分かる。
こんな可愛い女の子をナンパしている最中に、横から邪魔をしたのだから。
財布片手に着慣れたジャケットとジーパンで町を闊歩していた。
それが一時間前の出来事。
今は後悔している。
せめて天気予報くらい、見るべきだった。
バケツを引っ繰り返したような土砂降り。
急いで手近なコンビニに逃げ込んだものの、あっという間にずぶ濡れだった。
張りつく黒い髪を、後ろへ掻き上げる。
最近髪を切っていないことも災いして、服装から髪型まですべてが不快だった。
「雨、止まないなあ」
灰色を通り越して黒ずんだ空にぼやいた。
通り雨だと思っていた降りは、実は夜半まで続く大雨だった。
そんなことも知らず黄昏ていたのは、ほんの三十分前の出来事。
咄嗟に体が動いて、いつの間にか土砂降りに飛び込んでいた。
傘くらい買えばよかったと後悔するが、もう遅い。
力強く振り上げられた右腕を、乱暴にならない程度に掴んで止めた。
「なっ……?」
さらさらと弾けて流れる、
湿気にも負けない強い髪質。
長い金色の髪は、風に乗っていい匂いがした。
胸元程の高さから、人の顔を真正面から見上げてくるビリジアンの瞳。
外国人をこんなに近くで見るのは初めてだ。
しかし見惚れてはいられない。
「ごめん待たせたね」
掴んだ右手を自然に下ろし、手を繋ぐ形に持っていく。
「さあ行こうか。埋め合わせは、ちゃんとするから」
右手を引くと、女の子はハッと目を見開かせてすぐに笑った。
「しょうがないわね。今日の代金全部持ってもらうから」
元々頭のいい子なのだろう。
男二人とはいえ、カッとなって手を上げればどうなるか結果は明白だ。
穏やかに場を離れられるならそれに越したことはない。
隣に立ちながら、見上げる視線がお節介めと非難していた。
ずいぶん強気な女の子である。
だがこれで諦めるなら苦労はない。
「おい兄ちゃん、ちょっと待て」
なんて台詞だろう。だが気持ちは分かる。
こんな可愛い女の子をナンパしている最中に、横から邪魔をしたのだから。