てとてとてと
 急に割り込んできたお節介は、ため息を吐きながら足を止めて振り返った。

 その横顔は緊張していない、むしろやっぱりという呆れた顔。

 さり気なくあたしより前に出る仕草といい、実は手慣れているのではなかろうか。

 男の子は雨に濡れた黒髪を掻き上げながら何か用ですか、とナンパを見返した。

 見たかぎり二人の年齢はあたしよりも上。

 たいしてこの人は、同年代。

 背は同じくらい高いので年上だとこの時は思っていたが、実は違うのだ。


「何か用ですか、じゃねえよ」

「横からなにちょっかいだしてんだ」


 実に前時代的だ。
 そういえば第一声も、そこの彼女! とやけに軽い態度だった。

 古いなあ。

 男の子も同じことを思ったのか苦笑いを浮かべていた。


「横も何も先約ですから。悪いけど他を当たってもらえるかな?」


 それじゃあ、と空いた左手をひらひら振ると、あたしを連れて歩きだした。

 いきなり会話を打ち切って精神を逆撫でて、こんな相手は怒らせると何をするか分からないのに。

 案の定、去りぎわに見えたナンパたちの表情は真っ赤に染まっていて。


「待てって言ってんだろ!」


 肩を掴むなり、右腕を突き出し殴っていた。


 あたしは咄嗟のことで何も出来なかった。

 まっすぐ伸びた腕が、男の人の頬に叩きつけられるまで。

「ちょっと!!」


 乱暴な男の態度に腹を立てたあたしだったが、怒りが爆発する機会はなかった。

 突き出された拳が止まる。

 相手を倒すはずだった腕は、肘が曲がって伸びきらない。

 両足を折ることなく、殴りつけた拳と濡れた髪の隙間から睨みつける、鋭い瞳を持った男の人に止められていた。


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