白衣越しの体温
「2つめ…。これは聞いてもいいのか…正直解り兼ねるが…」
俺は次の質問を切り出す。これは九鬼島の書類を見たときから気にかけていたことだった。
「家族の事ですね。」
「あぁ…」
「いいですよ。思っているほど複雑ではありませんから」
淡々と答える九鬼島に本当に聞いてもいいのか戸惑いを覚えたが担任として、聞いておかなければならない…と思った。
ぽつぽつと語りだす九鬼島、
うちは、晩婚家庭で、姉が一人います。
いま、父と姉、母と私は別居中でして、まぁ今に始まったことじゃないですけども。
別居していたのは小学校2年くらいからでしたかね。その頃は父と姉と私は一緒でした。
母は私が1年生の時に水商売を初めて、帰りが遅くなるという理由でマンションを借りました。
まあ喧嘩をきっかけに2年生になったころには完璧にマンション暮しになっていたんですが。
私たち姉妹は学校が終わると母のところへいったりしてて、5年になった頃私は家出して母のとこで暮らし初めました。
交通のべんがいいとか学校から近いと、物ぐさな私は、だらだらと今の今までマンションで暮らしているわけですよ。
まぁ中一のときに賃貸マンションを離れて今住んでいるとこを購入しましたけど。
母も私もちょいちょいもとの家に帰るし、父も姉もマンションに遊びにきたり、犬の散歩してくれたり、誰かの誕生日はいつも家族皆でしてる謎の家庭です。
なぜかまだ離婚もしていません。
距離をとっているからこその今だとは思いますが。
「まぁかい摘まんで話すとこんなものですかね。」
「…辛くないか?」
「はい。ドロドロのピークは小6まででしたから。今はそれなりに楽しいです。お金にも困っていませんし」
「……υ」
高校生にしては冷めた解答だ。まるで若くして人生を悟ってしまったような口ぶりに俺はほおっておけない。
そう思った。
「でも……少し淋しい…かな。」
ざわざわと木々の擦れ合う音に消されてしまいそうなほど小さな九鬼島の叫びはしっかりと俺と慧に届いていた。
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