言霊師
歳は20代程かと思われるが、表情次第で若くも大人びた風にも見える彼女は、ヒトではなく、言霊から造られた式神だった。


「だめです…ひょうり・には、なにもしないでください…」


「何か言ったか?蝶。」


蝶、と呼ばれたその女性がヒトではない故か、生まれる言葉は全て平仮名となっている。その流れるような言霊に足止めをされた男は、ゆっくり振り返る。

その冷たい瞳の色に怯む事なく、蝶は言葉を紡いだ。


「しん・さま…もう、わたしは…わたしは……
あのときのように、あなたにつらいおもいをしてほしくないから…だから、ひょう…」

「黙れ。」


「――っ」


「余計な事を言う為に、その口を造った訳ではない。」


「しんさま…」

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