言霊師
蝶が男に呼び掛けた音を正しく漢字にすれば、
“慎様”。
それは紛う事なく、ひょうりの従兄弟の名。
部屋の中へ消えて行く慎に向かって伸ばしかけた手は虚しく空を彷徨い、やがてぱたりと、正座する自分の膝に落ちた。
腰に届きそうな程の黒髪を冷たい風に乱されても、その白い肌が冷やされて更に白くなっても、
蝶はそのまま動かない。
開け放してある障子を漸く閉めた頃には、空には幾つもの星が瞬いていた。
「まだ此処に居たのか…」
「ぁ…」
蝶が障子を少し開けた隙間から空を見ていると、背後から慎の声が響いた。
“慎様”。
それは紛う事なく、ひょうりの従兄弟の名。
部屋の中へ消えて行く慎に向かって伸ばしかけた手は虚しく空を彷徨い、やがてぱたりと、正座する自分の膝に落ちた。
腰に届きそうな程の黒髪を冷たい風に乱されても、その白い肌が冷やされて更に白くなっても、
蝶はそのまま動かない。
開け放してある障子を漸く閉めた頃には、空には幾つもの星が瞬いていた。
「まだ此処に居たのか…」
「ぁ…」
蝶が障子を少し開けた隙間から空を見ていると、背後から慎の声が響いた。