言霊師

「あーあ…一言主様に逢いたいなぁ」


「神って、忙しいんですね。祠とかに居るだけかと…」


「失礼ね!あの方は優秀故に多忙なのよ。
…ねぇ。今年の内にもう一度逢えれば、良い方なんでしょ…?」


ムメの質問の矛先は、ヒョウリだった。彼は、お茶を出しながら瞬時に得意の作り笑いを顔に張り付け、答える。


「…そう言ってましたね。」


大きな溜め息を吐く彼女に、心が痛む。真実を知ったら、意外にも直情型のムメの事だから、必死に神を捜すだろう。如何に危険だろうが、敵陣に突っ込んでしまう。


だから、

知っているのは、あの夜、神からの途切れ途切れの言霊を受け取った自分だけ。


命を危うくするのも、自分だけ。


それで良い。

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