言霊師
ヒョウリがそう考えるに至るまでには、少なからず葛藤があった。


ムメと会う予定をそのまま神に譲った…言霊遣いと会い見えた日の夜。


姿が見えない神を心配するあまり、無駄だと知りながらも外へ飛び出したヒョウリは、名を呼ばれた気がしてすぐに立ち止まった。


―――す・まぬ……
もう……も……出来ぬ…


手元に辿り着いた弱々しい言霊。それがかの神が紡いだものだという事を察するのは、た易かった。

神が生んだ言霊を、こんなにも弱らせた者がいるのだとしたら。


『慎だ…』


唯一思い付くのは、宿敵の名。神さえも自らの手の内で泳がせようとしているのだ。

怒りよりも不安が込み上げてくるのを隠すように、ヒョウリはこれからどう動けば良いのかを考えつつ部屋に戻った。

ムメと勇次を会わせて…事情を話して…

自分と慎との関係は…?


伝える必要がある…?


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