言霊師
それに何の反応も示さない神は、よく見ればその瞳に光がなく、人形のようだった。

彼が此処に来た理由は分かっている。

けれど、ヒョウリを助けて欲しいと祈るまでは、心の隅で信じていたのだ。一言主は、いくら囚われようともその心まで慎に明け渡すわけがない、と。

だけど現実は、慎の命令に従う人形となって目の前に立つ彼を見れば分かる。


「…やっぱり、私の願いなんて叶わないのね…」


「名を告げるとは、愚かな。―――消えるがいい。
…慎の命令だ。悪く思うなよ。」


あぁ、でもまだ一つだけ、叶えられる願いがあるではないか。まだ間に合う。いや、逆に、今しか叶えられないかもしれない。


「一言主様。消すならば、名を呼んで下さい。
私の名前を…貴方が紡いで、壊して下さい。」

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