言霊師
一言主のその声が合図であったかのように、ヒョウリとムメ、そして一言主の身体がぐにゃりと歪む。


「残酷な呪をかけたものだな…」


神が苛立ちながら放った言霊が向かう先は、


「…懐かしい景色だろう?」


慎だった。彼は、“いつか”と同じ状況になった段階で自然とヒョウリ達が“此処”に来るように呪を張っていたのだ。
それはつまり、この景色が繰り返されると確信していたからで―――。


「しかし…残念だな、一言主。貴様は、もう少し使えると思っていたのだ。…直接手を下すのは面倒でね。」


「ヒョウリも…彼女も、死なせはしない。」


「その女を黄泉帰らせるのか?フ…ハハハ!面白い。今度はどんな代償を?
この場所は、悲劇が繰り返されるには、相応しすぎるからな。好きにすると良い。」


一言主は、泣き止まないヒョウリの肩を掴み、ムメから離す。そして、歪んだ笑顔を貼り付ける慎を睨むと、すぐにその視線をヒョウリへと向けた。

泣き出しそうな瞳で。

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