言霊師
「一言主…?」
「ヒョウリ。全ての言霊には、真逆の意味がある。逆の意味があるからこそ、その言霊が心に響くのだ。光と影のように、その意味の表と裏は一対となる。どちらかが強すぎても、均衡が崩れてしまうだろう。
だから、ヒョウリ。
―――いや、“氷理(ヒョウリ)”。
その名に込められた願い、忘れるな。母君があの日、逝く直前まで何を願っていたか。何故、お前は慎と一寸違わぬ力を持つのか。」
「一言・主…」
「まぁ、母君はお前がこんなにも性格の悪い餓鬼になるなど思ってもいなかっただろうがなー。」
名を正しく呼ばれた氷理は、深刻な言葉の後にからかいを交ぜる神に、内心ほっとしていた。まるで最期の別れのように言葉を綴られ、不安が募っていたからだ。
「失礼な…貴方に言われたくないですよ」
「そうか?ムキになる所はまだ餓鬼だな」
だが、ポンポン、と頭を叩かれ反抗しようとした氷理は、一言主の真剣すぎる眼を見た。見てしまった。
「…ッ何を…」
何をするつもりなのか、と。
ただ、そう聞きたかった。
聞いて、自分ではどうする事も出来ない返事が返ってきたとしても―――