言霊師
氷理が何かを言う前に、一言主は言葉を放っていた。それは、氷理らを空間から切り取るかのような半透明の壁となり、慎は眉間に皺を寄せた。

「これも時間稼ぎにしかなるまい…だが、間に合うだろう。

氷理。次こそは、彼女を護れるな?―――いや、お前なら大丈夫だ。私の守護もあるのだから、出来るはず。」


「貴方は…?貴方もいるじゃないですか!?」


「…済まないが、私は暫く身を隠す事になる。
だが、今までのようにいつも見守っていて…ただ、会う事だけが叶わない。それだけの事。心配は要らない。」


「待…ッ!そんな…!?」


「私に出来るのは、こんな事だけなのだ…。だから、氷理…」


一度躊躇うように言葉を切った神は、柔らかな声で付け足した。


「我が愛しき人に…

―――夢芽(ムメ)に、伝えて欲しい。」


愛している、と。


微笑んだ一言主が瞼を閉じると同時に、柔らかくて…泣きたくなる程に暖かい光が弾けた。
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