言霊師
静かに、眠るように旅立った夢芽。
遠くで自分の名前が正しく呼ばれたのを聞き、意識をそちらへやれば、“夢芽”という言霊が溶け合うように身体と一つになっていった。

…トクン…トクン…

そうして再び動き出した命は、名を呼んだ方向へ引き寄せられ―――光に包まれる。


知っているのに、分からない。誰が、名を呼んだか…誰の声なのか、よく知っているのに…どうしてだろう?

―――誰なのか、全く分からない。


「―――――し、様…」


「お帰りなさい。」


「ひょ、り…?」


「お帰りなさい、夢芽さん。」

「ちょ…何よ!?引っ付かな…ぅわ、泣かないでってば!…服濡れ…」


こうして夢芽は黄泉帰った。

その代償が何だったのか、そして一言主が悲しげにしていた理由も、この直後、氷理は知る事になる。


「一言主が貴女を黄泉帰らせたんですよ。ただ、また暫く会えないらしくて…」


「…ちょっと待って。」


きっと喜ぶと思って言葉を紡ぐ氷理を、夢芽は遮った。


「黄泉帰ったのは、分かる。貴方が引き留めようとしてくれたのも聞こえたし…

でも、その“一言主”って、私の家が護ってる神でしょ?
また暫く…って、私、お会いした事もないわ。どうして助けてくれたのよ…?」
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