言霊師
――――――

「…やはり、貴様はそうするのだな…一言主」


全ての憎しみを込めたような眼で溢れた光を見るのは、慎。きつく握られた拳が震えるのに気付いた蝶がそっと手を添えると、ハッとしたように拳をほどく。そして、半透明の壁がサラサラと崩れ、その向こうに氷理と夢芽の姿が見えれば、いとも容易く笑みを浮かべてみせた。

嘲るような笑い。

そんな笑い方しかしらないかのように。


「貴方が“慎”ね!?よくもやってくれたわね!」


「絶対にお前だけは赦さない…勇次は何処だ!?」


「何だ、威勢が良いな。つい先程まで泣き崩れていたのに。…その女に関しては、生きてもいなかったがな。
無理に引き戻された気分はどうだ?」


「悪くないわよ。そのお陰で、この場所がどんな意味を持つのか、見てきたもの。
いえ、見せてもらった。」


「成る程…一言主も色々と小細工が出来るように…」
「違う。僕の母親だ」


氷理が少し俯きそう告げれば、口調とは裏腹の殺気が立ち込める会話が途切れる。
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